IPO偏重のEXITがベンチャー・エコシステム構築に向けた課題になっている

ベンチャー・エコシステムは起業家や投資家、ひいては国内の経済全体に影響を与える重要な仕組みです。
しかし、ベンチャー・エコシステムの構築を進めるには、ベンチャーの在り方にも変化が必要です。
成長ステージ別に様々な課題がありますが、特にレイターステージにおいてはIPOに偏っていることが問題視されています。

以下でベンチャー・エコシステムのこと、また、その構築にあたっての課題について見ていきましょう。

目次

ベンチャー・エコシステムの構築が社会全体にとって重要

日本経済全体のことを考えた場合、ベンチャー企業の成長促進が重要です。経済産業省も、「世界にインパクトを与える起業家やベンチャー企業・イノベーション企業が生み出される社会の構築がより豊かな国民生活の実現に資する」とし、様々な政策を統合的に実施すると示しています。

ただしベンチャー企業の成長促進に向けては課題も多いのが現状です。

シードステージ・アーリーステージ・ミドルステージ・レイターステージ、それぞれに課題があり、成長段階に合わせた取り組みが欠かせません。

また、企業側の努力だけでなく、ベンチャーインフラ整備に向けて政府も一体となって取り組むことが重要視されています。

ベンチャー・エコシステムとは

「ベンチャー・エコシステム」とは、ベンチャー企業が起業されてから自立するまでが好循環で繰り返されるようなシステム、また、それを支える人材や組織、ネットワークなどのインフラを意味します。

「エコシステム」自体、様々な生物と環境が相互に作用し合って生命および物質の循環を作り出すシステムを意味しています。この言葉をベンチャーにあてはめ、企業のライフサイクルとその成長を支えるインフラや制度などが互いに結びつく仕組み、としています。

レイターステージにおける社会的な課題

レイターステージにまで成長したベンチャー企業は、シードステージアーリーステージほど資金調達で困ることはありませんし、安定期に入ります。

しかし、ベンチャー・エコシステム構築という観点で見ると、大きく「EXITがIPOに偏り過ぎている」「グローバルベンチャーが少ない」という問題を抱えています。

EXITがIPOに偏っている

レイターステージにおいて大きな課題となっているのが「EXITにおけるIPOへの偏重です。

これは特に日本で顕著な問題です。日本ではIPOによるEXITが圧倒的に多数を占めており、M&Aに対しては消極的な傾向にあります。

他方、アメリカではM&Aも割合多く実施されており、M&Aによって起業家が新たにキャッシュを得、連続的に起業を行うあるいはエンジェル投資家に転じるという循環が起こっています。

つまり人材についてのエコシステムが形成されているのです。

EXIT手段が偏っていることの要因としては、以下が考えられています。

  • ITベンチャーが⽐較的短期間でのIPOが可能であることから、ベンチャー・VC双方が選好しがちであること
  • ⼤企業において、有望なベンチャーを見出す人材・⼈脈が不⾜していること
  • ベンチャー企業において、説得的な事業の設計・説明能⼒が不⾜していること

そこで政府としてもM&Aの促進を行うとともに、イノベーション拠点との連携強化も図り、課題解決に向けた取り組みが進められています。

グローバルベンチャーが少ない

IPOへの偏りの他、グローバルベンチャーが多く排出できていないという課題も抱えています。

世界のトップ企業のうち、ここ20年ほどで設立されたものは約1/6ほどに留まると指摘されており、アメリカと比べてもかなり少ない値です。アメリカでは世界のトップ企業のうち1980年以降に設立されたものは約1/3ほどとされ、割合だけを見ると2倍の差です。企業数で見るともっと大きな差が生まれています。

グローバルベンチャーの少なさに関しては、主に以下の要因があるのではないかと考えられています。

  • 国内市場だけでもある程度の規模があることから、⼩さくまとまるビジネスモデルになりがち
  • グローバル拠点・グローバルな市場との繋がりが小さい
  • グローバルな視野を持った⼈材が少ない

また、ミドルステージにおいて「グローバルで戦うための大規模な資金不足」も大きな課題とされています。

そこで、政府としては企業の架け橋を作り、世界のイノベーション拠点との連携強化を目指した取り組みが進められています。例えばシリコンバレーと国内の起業家・ベンチャー企業に接点を持たせ、グローバルで活躍するベンチャーの創出およびイノベーター形成の促進を図っています。

他の成長ステージにおける社会的な課題

ベンチャー・エコシステムの構築にあたっては、レイターステージにおけるEXITの手段やグローバル展開だけでなく、起業段階からの取り組みが重要です。

そこで、シードステージやアーリーステージにおいては
⼤学や研究開発法⼈に研究開発型ベンチャーを生み出す素地が不⾜していること
そもそもの起業数が少ないこと
などが課題とされています。

ミドルステージにおいては上で挙げた
グローバルに向けた資金の不足」や、
⼤企業と研究開発型ベンチャーの連携やオープンイノベーションの不⾜
が課題とされています。

レイターステージでは様々なEXIT⼿段を検討・評価しよう

経済全体への影響を考えたときの、ベンチャー企業の各成長ステージにおける課題を説明してきました。

ベンチャー・エコシステムの構築については政府が主体となり施策を進めていくことが重要であり、一企業が社会貢献を第一に進めていくわけにもいきません。

しかし、EXITの手段としてM&Aを視野に入れたり、グローバル展開を目指したりすることは企業や投資家の利益にも繋がることです。

IPOのみならず、M&Aに関しても専門家に相談しつつゴール設定の1つとして検討してみると良いでしょう。