ベンチャー企業として成長を続け実績も重ねることで、VCや融資などによる資金調達も比較的容易になってきます。この安定期を「レイターステージ」と呼びます。
そしてレイターステージに入れば、IPOを検討する時期になってきます。EXITの手段としてはM&Aもありますが、ここでは件数の多いIPOについて、最低限知っておくべき法律の知識を解説します。
IPOでは単に売上や利益が大きいだけではいけません。少なくとも以下で挙げるような法律を理解し、法律に遵守した企業活動を心掛ける必要があります。
目次
IPOではコンプライアンスが重要
IPOでは審査においてコンプライアンスも重視されます。
社内規範がしっかりしていること、倫理的規範なども考慮されますが、大前提として法律や条例などの法規範に従っていなければなりません。
そこで、企業活動における基礎的なルールに加え、事業内容に関連する各種法令の内容など、経営者や法務担当は広範に法令をカバーしていかなければなりません。
IPOで特に注意すべき法律
IPOにおいて注視すべき法律は企業によって異なりますが、ここでは一般に考慮すべき可能性の高い法律を挙げていきます。
会社法
どんな事業を遂行する企業でも、会社としての組織運営や株主との関係、債権者との関係など、「会社法」として定められた基礎的なルールに従う必要があります。
例えば株主総会の適正な運営をしていることはもちろん、IPOに向けては取締役会や監査役会の設置も重要です。これら機関の設置に関しても会社法にルールが規定されており、厳格な要件を満たす形で設置・運営していかなくてはなりません。
また、会社法に規定されている開示制度への準拠もIPOの観点から重要です。株主と債権者、両者の利害を調整するため、財産状況に関する会計情報の提供を適法に行いましょう。
金融商品取引法
「金融商品取引法」もIPOと密接に関わる法律です。
同法は、企業内容等の開示制度の整備、金融商品取引所の適切な運営の確保などにより有価証券の発行や金融商品の取引を公正にすることを目的としています。また、有価証券の流通円滑化や投資者の保護などもその目的として掲げられています。
そこで、同法は投資性の強い金融商品に対し横断的な投資者保護制度を整備し、開示制度の拡充や不公正取引への規制などを行っています。
同法における開示制度としては、投資者に向けて、財政状態や業績、キャッシュ・フローに関する会計情報の提供を求めています。
不公正取引への規制としては例えば「インサイダー取引規制」があります。
重要な会社情報を持つ役員等が未公表の情報を利用して株式の売買することを防ぎ、一般の投資家も安心して証券取引が行うことができるよう、証券市場の健全性・公正性を担保する規制です。
こうした各種規制・制度に従った運営をしていかなければなりません。
労働基準法など
近年はコンプライアンスにおいて労働関係が注目される機会が増えています。
上場審査においても人事や労務に関する審査が厳格化されています。労務紛争の発生が原因で上場できなくなる可能性もありますので、IPOの準備にあたり見直しが欠かせません。
労働基準法など労働関連の法規に準拠した労務管理、勤務形態の構築や社会保険への加入などにはこれまで以上に注意が必要です。
具体的な法律としては、以下があります。
- 労働基準法
- 労働安全衛生法
- 労働者派遣事業の適正な運営の確保および派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律
- 短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律
- 雇用の分野における男女の均等な機会および待遇の確保等女性労働者の福祉の増進に関する法律
未払い残業代がないか、名ばかり管理職によるサービス残業が発生していないか、内部の問題に目を向けていきましょう。
他にも36協定の適切な運用、時間外労働に対する適切な割増賃金の支払い、派遣社員や契約社員、パート・アルバイトに対する同一労働同一賃金の原則の順守などに着目してみましょう。
なお、残業代に関する請求権については近年の民法改正により消滅時効の期間が変わっています。このような法改正にも要注意です。
景品表示法
「景品表示法(不当景品類及び不当表示防止法)」は、サービス・商品の内容や品質、価格などの表示を適正なものにするための法律です。過大な景品類の提供なども規制し、消費者が自主的に良い商品・サービスを選べる環境となるよう図られています。
すべてのベンチャー企業ということではありませんが、近年はWeb広告も広く利用されるようになっていますので、その場合には一定の配慮が必要です。例えばアフィリエイトなど、バナー広告を運用するのであれば景品表示法の内容を知っておかなければなりません。
資金決済法
「資金決済法(資金決済に関する法律)」も近年重要度が増している法律です。
同法は電子マネーの扱い等について規制をしています。C to Cプラットフォーム型ビジネス、オンラインゲームの提供など、システム上の通過を運用するのであれば要注意です。
また、2020年には改正もされています。
個人情報保護法
個人情報の保護に関しても世界的に注目度を増しています。
国内では「個人情報保護法」が施行されており、個人情報を扱う事業者はすべて同法の規制対象となります。
ITの発展に伴い改正も頻繁に行われていますが、同法の内容理解に努め、違法な状態とならないよう注意しなければなりません。
特に顧客や取引先情報の漏洩に関しては、これを防止するよう厳格な体制を整備しなければ社会的な信頼を落としかねません。
その傾向は海外でも同様です。EUでも、EU域内の個人情報を保護する法として「GDPR(General Data Protection Regulation)」が施行されています。「一般データ保護規則」とも呼ばれる法で、EUのみならず、EU域外の事業者にも適用されることで話題になりました。
重い罰則規定も設けられていますので、国内の個人情報保護法のみならずGDPRに対しても企業は備える必要があります。
GDPRに関してはこちらで資料がまとめられていますので、参照すると良いでしょう。