M&Aの実施にあたっては、非常に幅広い法令が関係してきます。そのため経営戦略としてM&Aが成功するように取り組むことはもちろん、それが結果的に違法とならないようコンプライアンスにも配慮しなければなりません。
M&Aにより事業を伸ばしていこうとしているにも関わらず、適法に実施できていないがためにかえって評価を落としてしまう可能性もあります。
そこで、ここではM&Aを検討している企業の経営者や法務担当者が知っておくべき法律について紹介していきます。実際に適用されるルールはM&Aの実態によって変わってきますので、ここでは関連する法律の概要を簡単に挙げていきます。
目次
M&Aに関わる法律一覧
M&Aに関わる法律すべてではありませんが、主なものを以下に挙げます。
- 会社法
- 金融商品取引法
- 独占禁止法
- 法人税法
- 所得税法
- 労働契約承継法
- 国税通則法
- 国税徴収法
- 連結納税基本通達
- 相続税法
- 登録免許税法
- 消費税法
- 地方税法
- 印紙税法
- 租税特別措置法
- 外国為替及び外国貿易法
また、これらの法律について厳格にルールを守ろうとするなら関連する施行令や施行規則についても見なければなりません。その他各種ガイドラインなど、幅広い資料に目を通す必要が出てきます。特に経営者がこれらの法律のあらゆる分野に精通することは困難ですので、M&Aに強い弁護士やその他専門家の力を借りることが非常に重要になってきます。
M&Aで特に注意すべき法律
上で関連性の強い法律をざっと挙げましたが、その中でも特に注意が必要な法律を取り上げていきます。
会社法
「会社法」は、その名の通り会社の運営等に関するルールを定めた法律で、設立から機関設計、運営および管理に関することなど広範にここで取り扱われています。他の法律と比べても、企業活動の基礎的ルールに該当しますので、経営者であれば少なくとも会社法の内容を理解している必要があるでしょう。
M&Aに関して言うと、例えば株式の取得割合がその後どのように影響するのか、会社法の内容を知っておくことが大切です。
3分の1を超えるのか2分の1を超えるのかによって、その後の経営権に大きく影響します。
また、合併や会社分割といった組織の再編行為については会社法に手続が定められていますので、これを知らずに実施することはできません。
M&AのプロセスではDD(デューデリジェンス)も実施しますが、そこで重要になる「適法な会社運営の可否」も、会社法の内容を知らなければ評価ができません。
金融商品取引法
「金融商品取引法」は、有価証券の発行・売買など、金融取引の公正および投資家の保護、経済の円滑化などを図るために設けられた法律です。
以下が同法の目的として明記されています。
(目的)
e-Gov法令検索(https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323AC0000000025)
第一条 この法律は、企業内容等の開示の制度を整備するとともに、金融商品取引業を行う者に関し必要な事項を定め、金融商品取引所の適切な運営を確保すること等により、有価証券の発行及び金融商品等の取引等を公正にし、有価証券の流通を円滑にするほか、資本市場の機能の十全な発揮による金融商品等の公正な価格形成等を図り、もつて国民経済の健全な発展及び投資者の保護に資することを目的とする。
上場企業の場合には特に金融商品取引法の知識が欠かせません。
主に「第三者割当増資」「株式公開買付」「新たに株式を5%取得」「M&Aの会計処理」といった場面で配慮することになるでしょう。
上場企業だと、多くの投資家が企業活動に関わってきますので、これら投資家を保護するため、同法で様々なルールが厳格に定められているのです。
独占禁止法
「独占禁止法」は、「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」が正式名称です。同法により不当に市場を独占するような行為を規制しています。以下がその目的です。
第一条 この法律は、私的独占、不当な取引制限及び不公正な取引方法を禁止し、事業支配力の過度の集中を防止して、結合、協定等の方法による生産、販売、価格、技術等の不当な制限その他一切の事業活動の不当な拘束を排除することにより、公正且つ自由な競争を促進し、事業者の創意を発揮させ、事業活動を盛んにし、雇傭及び国民実所得の水準を高め、以て、一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的とする。
e-Gov法令検索(https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000054)
独占禁止法では、本来競争をすべき企業同士が裏で手を組む行為などを禁止し、また、不当に特定の企業を排斥するような行為も禁止しています。これには健全な競争によって経済を促進させ、消費者に過度な負担をかけさせない効果が期待されています。
そして競争相手となる企業とグルになる行為が規制止されている以上、実質的にこれを実現し得る「会社の結合」にも規制が必要なのです。
悪意を持って結合していなくても、M&Aにより市場が独占状態となる場合には違法になる可能性があるのです。M&Aの規模が大きく、一定要件を満たす場合には公正取引委員会への届出が必要になりますので、要注意です。
法人税法
「法人税法」は、法人税についての税額計算や手続などが定められている法律です。
(趣旨)
e-Gov法令検索(https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=340AC0000000034)
第一条 この法律は、法人税について、納税義務者、課税所得等の範囲、税額の計算の方法、申告、納付及び還付の手続並びにその納税義務の適正な履行を確保するため必要な事項を定めるものとする。
M&Aにおいては買い手の投資回収という観点で同法が重要になります。対象会社の繰越欠損金、連結納税の適用可否など、将来のキャッシュフローに大きな影響を与えるケースがあります。
税制については、改正頻度も高く、知識のアップデートの必要性が高いという特徴もあります。
労働契約承継法
「労働契約承継法」は「会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律」が正式名称で、会社分割による労働者の扱いについて定められた法律です。
第一条 この法律は、会社分割が行われる場合における労働契約の承継等に関し会社法(平成十七年法律第八十六号)の特例等を定めることにより、労働者の保護を図ることを目的とする。
e-Gov法令検索(https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=412AC0000000103_20150801_000000000000000)
第一条に定められている通り、会社分割の影響を受ける従業員の保護がその目的ですので、転籍後も同じ雇用条件で働けるようにするといったルールなどが設けられています。そのため会社分割によるM&Aの場合には同法の知識が欠かせません。