ベンチャー企業が通る「死の谷」とは?アーリー期における課題や対策について

アーリー期のベンチャー企業は、製品開発やマーケティング、そして販売活動に向けて進みだした段階にあります。事業の展開を始め、理想的には、これから急速に伸びていくことになります。しかし、損益分岐点を迎え、利益を大きくしていく手前には「死の谷」と呼ばれる苦しい時期があります。

ここではアーリー期の死の谷について触れ、死の谷を越えていくために重要な考え方、対策について解説していきます。

目次

アーリー期で問題となる「死の谷」とは

死の谷とは何なのか、ということをまずは整理しておきましょう。

そもそもアーリー期(アーリーステージ)は、製品・サービスの開発から販売に向けた活動が活発化する段階にあります。つまり、まだ本格的な売上は出てきておらず、大きな支出が続いている状態です。

そのため、シード期で検討した新たな技術などを製品化するのに十分な資金が集まらず、上手く波に乗れないことがあります。あるいは、利益を出すまでの期間出続ける支出に耐えられないこともあるのです。

こうして資金が底をつきそうになった状態を「死の谷」と呼びます。換言すると、「資金回復までの資金量の谷底」と表現できます。

単なる資金不足というよりは、ベンチャー企業が利益に優先して資金を投下し、事業の開発やシェア拡大を目指すことで発生するという特色を持ちます。

事業の準備という意味ではシード期も同様ですが、一般的にこの時期は必要資金がそれほど多くなく少額出資でもまかなえます。

ミドル期の後だと売上が伸びる段階に入っていきますし、融資などによる資金調達もしやすくなってきます。

そのためアーリー期をどのように過ごすか、死の谷をどのようにして超えるかがその後の生き残りに大きく関わってくるのです。実際、少なくない数のベンチャー企業が死の谷を超えられず、ここで倒産してしまっています。

死の谷を超えてベンチャー企業が生き残るための対策

それでは死の谷でそのまま倒産することなく生き残るにはどのような対策を取ると良いのでしょうか。
以下でそのセオリーを紹介していきます。まずはここで説明する内容を基に、自社に適した形で実践していくと良いでしょう。

死の谷対策1:持ちこたえられる期間を計算する

まずは自社にとっての死の谷がどれだけ深いのか、どれだけ広いのか、把握しなければいけません。要は、持ちこたえられる期間、活動限界の期間を計算するということです。

そのためには現在のキャッシュに対し、どれだけの支出があるのか、バーンレートの割合を計算します。なお、バーンレートとは企業活動に必要な月当たりのコストのことです。

そのため、「キャッシュ÷バーンレート」の計算によって、だいたい何ヶ月間活動が続けられるのかが把握できるのです。

さらに、次の資金調達までの期間を整理してこのままで問題ないのかどうかを見定めていきます。間に合わないと概算される場合には「キャッシュを増やす」「バーンレートを下げる」という対策を進めていかなくてはなりません。

キャッシュを増やすには資金調達や売上の向上バーンレートを下げるには経費の削減が代表的な手法と言えます。以下でそれぞれにつきさらに説明していきます。

死の谷対策2:アーリー期に適した資金調達をする

キャッシュを増やす1つの方法が資金調達です。しかしアーリー期での資金調達は簡単ではありませんので、成長ステージに合わせた戦略を考えなくてはなりません。

例えば代表的な資金調達の方法である「銀行融資」はこの時期にあまり向いていません。信頼が得られず受けることが難しくもありますし、経営者にとっても大きなリスクとなる可能性が高いです。当然ながら返済義務がありますので銀行から保証を要求され、不動産も保有していないと考えられるアーリー期においては担保に出せるものもなく、経営者が個人保証するケースが多いです。債務不履行に陥ってしまう可能性の高いこの時期に個人保証すると、死の谷を超えられなかったときにその企業のみならず、経営者個人も破産に追い込まれる可能性があります。

これに対しVCからの資金調達は、難しさもあるものの比較的アーリー期にも適している方法と言えます。ただこの場合には経営権喪失のリスクがあるため、株式発行の仕方には注意が必要です。

また、公的機関の融資であれば活用の検討をしても良いでしょう。日本政策金融公庫の資本性ローンなど、その他スタートアップから間もないベンチャー企業に向いた制度がいくつかあります。

なお、アーリー期における資金調達に関してはこちらのページで詳しく解説しています。

死の谷対策2:小規模からでも事業化して売上を出す

売上もキャッシュを増やす有効な手段です。

そこで、シード期からあらかじめ顧客を明確化しておくこと、そして小さな規模からでも事業化を始めることが大切です。

アジャイルで試作レベルのものから事業を開始して商品・サービスのブラッシュアップを進めていくと運営を安定化させやすいです。潤沢な資金がない場合には長すぎる準備期間が大きな負担となってしまいますので、手探りで初めて、トライ&エラーを回していきましょう。

死の谷対策3:バックオフィスを整え経費を削減する

バーンレートを下げるためには無駄な支出をなくすことによる経費削減が一番です。そのためにもまずはバックオフィスを整え、会計や経理などを機能させて自社の状況が正確に把握できるようにしなければなりません。アーリー期のベンチャー企業でも月次決算を怠らないようにしましょう。

また、事業化に必要な資金を減らす工夫も考えるべきです。設備投資は特に圧迫要因となりますので、外部企業とのアライアンスも視野に入れましょう。