【就業規則の記載事項③】任意的記載事項としてよく記載される条項を解説

就業規則に定めるべきことが法的に義務付けられていない事柄についても、就業規則に明記しておくことでルールを周知させることができます。この任意的記載事項を設けることで、労働者との認識のずれをなくしてトラブルも防ぎやすくなります。

実際の就業規則ではどのような内容がよく定められるのか、ここで解説をしていきます。

目次

就業規則における任意的記載事項とは

就業規則には少なくとも「絶対的必要記載事項」と呼ばれる条項を設けなければなりません。そして「相対的必要記載事項」と呼ばれる一定のルールについては就業規則に定めておかなければ効果が生じないとされています。

絶対的必要記載事項についてはこちらのページ

相対的必要記載事項についてはこちらのページ

これらのいずれにも該当しないルールについては、就業規則に定めなくても有効に会社と労働者を拘束することとなります。もちろん、労働基準法等の法令に反しないこと、公序良俗に反しないことが前提ですが、基本的には自由に定めることが可能です。

この事項を「任意的記載事項」と呼びます。

任意的記載事項①:総則(目的や適用範囲等)

就業規則には通常、第1章に「総則」が置かれます。

総則の章には、「就業規則作成の目的」や「規則の遵守」、「就業規則の適用範囲」に関することなどが明記されます。

もし、正社員とパートタイム労働者とで異なるルールを適用させるのであれば、適用範囲の条項を設けてその旨明記しておきましょう。

ただし2021年4月からは、雇用形態の差による不合理な待遇差を禁ずることが法律上明確化されています。そのため賃金のみならず福利厚生その他の待遇すべてについて、合理的な理由がないのであれば労働者間の差は廃止する必要があります。

任意的記載事項②:服務規律

服務規律とは、例えば以下のような条項のことを指します。

―――――――― 記載例 ――――――――

(服務)
第〇条 労働者は、誠実に職責を果たし、会社の指示命令に従い、職場秩序の維持に努めなければならない。

“遵守事項”の条項を設け、その中で守るべき具体的ルールを設定しても良いでしょう。

ハラスメントの禁止について

服務規律には単なる宣言の意味しか持たないものもありますが、ハラスメントに関しては特に明記しておくことが望ましいです。

2022年4月1日からは“職場のパワハラを防止するために必要な措置を講じなければならない”ことが、法律上事業主に課せられています。

そこで就業規則でも以下のようにパワハラを禁ずる旨宣言し、労働者に周知させることが大切です。

―――――――― 記載例 ――――――――

(パワーハラスメントの禁止)
第〇条 職務上の地位や人間関係など、職場上の優越的な関係を利用して、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動で他の労働者の就業環境を害するような行為を禁ずる。

パワハラのほか、セクハラやマタハラ等についても、事業主にはこれを防止する措置をとることが義務付けられています。

以下のようにそれぞれ明記しておくことが望ましいです。

―――――――― 記載例 ――――――――

(セクシュアルハラスメントの禁止)
第〇条 性的言動により、他の労働者に不利益・不快感を与えること、就業環境を害するような行為を禁ずる。

(妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントの禁止)
第〇条 妊娠や出産等に関する言動および妊娠・出産・育児等に関する制度等の利用に関する言動により、他の労働者の就業環境を害するような行為を禁ずる。

ハラスメントに関してはこちらの記事でも解説しています。

任意的記載事項③:採用

労働者を採用する際の手続きやそのときの提出書類、試用期間に関するルールも任意的記載事項にあたります。

なお、採用手続きに関しては男女関係なく均等な機会を与えなければならないと法定されています。
際限なく会社側の自由な採用手続きを設けられるわけではありません。

また、合理的な理由なく身長や体重、体力などを要件とすることも禁止されていますので注意しましょう。
ただし合理的な理由があるのなら、これらを採用要件にしても問題はありません。

試用期間に関しては、「試用期間の長さ」と「試用期間中の解雇」のルールに注意が必要です。

試用期間の長さについては労働基準法上の規制はないのですが、むやみに長い期間を設けるべきではないと考えられています。労働者の立場を不安定にしてしまうからです。

また、試用期間中だからといって会社の自由に解雇ができるわけではありません。最初の14日に限って即時の解雇ができるとされており、それ以上雇用したときには試用期間中であっても30日以上前の予告が必要です。

この予告を欠いて解雇をする場合、解雇予告手当を支払わなければなりません。

任意的記載事項④:異動

業務上の理由により、労働者に就業場所や業務内容等の変更を命ずることは法令に抵触しません。労使間で特別の定めがなければ認められます。

しかし、この異動については労働者とのトラブルが生じやすいポイントでもあるため、就業規則に以下のように明記しておくことが望ましいです。

―――――――― 記載例 ――――――――

(人事異動)
第〇条 会社は、業務上必要があるときは、労働者に対し就業する場所および業務内容の変更を命ずることがある。
2 労働者は、正当な理由なく前項の命令を拒むことはできない。

ただし法律上、労働者の就業場所を変更するには労働者の育児・介護の状況に配慮すべきことが求められています。就業規則に定めたからと言って自由に命令ができるようになるわけではありません。