パワハラは単なるモラルの問題にとどまらず、法律違反になることもあります。特に近年は「パワハラ防止法」の施行もあり、何ら対策をしない事業者が違法になってしまう可能性も出てきました。
以下ではパワハラがどのような法律違反となり得るのか、また企業が知っておくべきパワハラ防止法に関しても解説しますので、コンプライアンスへの配慮に向けてぜひ参考にしてください。
目次
パワハラは法律違反になるのか
パワハラとはパワーハラスメントの略称で、職場での地位や人間関係の優位性を悪用し、身体的・精神的な苦痛を与える行為などを言います。
一見して良くない行為だということは分かりますが、特に気になるのは「違法行為にあたるかどうか」ということではないでしょうか。
結論から申し上げますと、パワハラは様々な法に抵触する行為であり、民事上の責任を問われるのみならず、刑事責任を問われる可能性も持っています。また近年の法改正により、パワハラ行為をはたらいた者を使用する企業側にも一定の対処が求められています。
パワハラが犯罪になることがある
まず知っていただきたいのは、パワハラは様々な行為を包含する概念であり、その分、多様な犯罪にあたる可能性も秘めているということです。
身体的、そして精神的な苦痛も広く該当し得るため、例えば暴行罪や傷害罪、侮辱罪、名誉毀損罪、強要罪などが成立し得ます。これらは刑法で禁じられている行為です。
暴行罪であれば、本人としては軽く手を出した程度でも十分成立する可能性があります。その結果怪我をすれば傷害罪となり、より重い罪となります。
具体的な事実を挙げ、人前で晒上げるような行為をすれば名誉毀損罪が成立することがありますし、単に馬鹿にするような言葉を浴びせただけでも侮辱罪は成立します。
またわいせつな行為をした場合にはパワハラおよびセクハラにあたるとともに強制わいせつ罪が成立することもあります。
罪に問われるのは行為をした本人ですが、企業としてはその事実が世間に知られることで信用を落とすことになりかねません。
パワハラが不法行為にあたることがある
行為者は、前項のような刑事責任のみならず、民事上の責任を問われることもあります。犯罪に関しては国家と私人が対立する構図になりますが、民事訴訟においては被害者と加害者という私人同士が対立する構図となり、主に損害賠償を求めて争われます。具体的には、パワハラが不法行為にあたるとし、「その不法行為によって損害が生じたから賠償金を支払え」という請求がなされます。
そしてこの場合には企業にも責任が問われやすいです。犯罪が成立する場合には間接的な損害に留まっていましたが、民事訴訟においては被害者から直接企業に対しても損害賠償を請求される可能性があります。
事業者はパワハラ防止法違反になることも
企業としては、何ら対策を取っていないことが原因となり、パワハラ防止法に抵触するおそれがあります。これは近年の法改正により明示された義務のことです。詳しくは以下で見ていきましょう。
パワハラ防止法とは
2019年に労働施策総合推進法が改正(公布)され、職場におけるハラスメント対策が企業に強く求められるようになっています。一般に「パワハラ防止法」と呼称されることもありますが、これは労働施策総合推進法の一部、パワハラに関して設けられた規定を指しています。
同法30条の2に置かれています。
(雇用管理上の措置等)
電子政府の総合窓口(e-Gov):https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=341AC0000000132
第三十条の二「事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。」
2「事業主は、労働者が前項の相談を行つたこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。」
3「厚生労働大臣は、前二項の規定に基づき事業主が講ずべき措置等に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針を定めるものとする。」
4「厚生労働大臣は、指針を定めるに当たつては、あらかじめ、労働政策審議会の意見を聴くものとする。」
5「厚生労働大臣は、指針を定めたときは、遅滞なく、これを公表するものとする。」
6「前二項の規定は、指針の変更について準用する。」
企業の義務となるパワハラの具体的対策の内容
上記条文では大まかなことしか記載されていませんので、企業が講じる具体的な措置等に関しては厚生労働大臣が策定した「指針」(パワハラ対策の関係法令および指針)に従って、事業主は取り組むことになります。
指針では細かく様々な事項が定められていますが、少なくとも企業としては以下の内容に取り組まなければなりません(義務規定)。
- パワハラに関する企業としての方針を明確化し、従業員に知らせる
・「パワハラの内容」「してはいけない旨」「行為者には厳正に対処する旨」を明確化
・単なるスローガンで終わらないよう就業規則等に規定する - 相談に応じられる体制を整える
・相談窓口を設け、そのことを従業員に知ってもらう
・相談窓口の担当者が適切な対応をできるように講じること - パワハラが発覚した場合の迅速・適切な対応
事実関係を早期に確認
被害者に対するフォローを速やかに行う
行為者への措置を適正に行う
再発防止に向けて取り組む - 相談者が不利益を被らないようにする
相談者のプライバシー保護、相談したことを理由に不利益な取り扱いがされないように体制を整備し、従業員にそのことを周知させる
その他取り組むことが望ましい内容
上の内容は義務規定です。必ず取らないといけない措置です。
これに対しパワハラ防止法では努力義務を課した規定も設けています。そのため以下の内容は企業の義務ではありませんが、従うことが望ましいとされているものです。
- パワハラに加え、セクハラやマタハラ(妊娠・出産・育児等に関するハラスメント)などもまとめた、一元的な相談ができる体制を整えること
- パワハラの原因をなくすため、コミュニケーションを活発化させたり、研修等を実施したりといった取り組み
- アンケートや意見交換の機会を設け、現状の把握を行うこと
- 就活生や他者の従業員、取引のある個人事業主等に対しても、パワハラに関する取り組みの指針を示すこと
他にも企業が取り組むべき施策は多くありますが、少なくともここで紹介した内容は理解しておきましょう。
パワハラ防止法は、罰則規定はないが事実上の損害は生じ得る
パワハラ防止法では義務規定も設けられていますが、罰則規定は置かれていません。そのため上記義務に従わなかったとしてもそのことにより直接的な制裁が加えられることはありません。
ただ、厚生労働大臣による助言や指導、勧告の対象となりますし、その結果、パワハラ防止法に従わなかった企業として公表されてしまうこともあります。
これは対外的な信用を重視する企業としては実質的な制裁となり得ます。消費者や取引先にこのような事実が知られることで、結果として売上にも響きます。
また、冒頭で述べたように、パワハラが実際に発生してしまうと行為者とともに損害賠償を請求されるおそれもあります。よって、様々な観点から、やはりパワハラを防止する策を講じておくことがこれからの企業活動においては重要といえるでしょう。
いつからパワハラ対策が義務化されるのか
以上の規定は、令和2年(2020年)6月1日から大企業に適用されています。
一方中小企業においては令和4年(2022年)4月1日から適用されます。そのため本記事で紹介した内容が中小企業において実際に義務化されるのはその日からです。それまでは努力義務に留まります。
ただ、その日を迎えてから検討を始めたのでは遅いため、すぐにでも対策を講ずるよう動き始めるべきでしょう。
パワハラがあると企業イメージを下げてしまうためしっかりと対策を!
パワハラは近年特に重視されるようなっている「コンプライアンス」にも直接関係します。企業イメージを下げないため、従業員を守るため、安定した企業活動を続けるためにもしっかりと対策していきましょう。