従業員(もしくは元従業員)から「未払い賃金を支払ってください」との請求を受けることがあるかもしれません。企業としてはそのような事実を認められないこともあるかもしれませんし、逆に認識をしていたという事情もあるかもしれません。いずれにしろ請求を受ければ企業も状況に応じて対応をしなければなりません。
そこで以下では未払い賃金に関して請求を受けたとき「企業はどのような行動を取るべきなのか」ということに言及していきます。
目次
まずは賃金の支払義務の有無を確認
従業員から直接支払いの請求を受けることもあれば、その従業員が弁護士に依頼し、弁護士を介して請求を受けることもあるかもしれません。しかしどのような状況にしろ、まずは支払義務が本当にあるのかどうかを確認することから始めなくてはなりません。
賃金の未払いが確認されたら支払う
逆に請求内容を確認した結果、支払わなければならない賃金が残っていると発覚したときには速やかに支払いましょう。多少経営状況が悪いからと言って支払わなくて良い理由にはなりません。コンプライアンスの観点からも是正すべき状況です。
いつまでも未払い賃金を放置しているとペナルティを受けて大きな損失を被ることにもなりかねません。特に弁護士を介した請求をされたのであれば相手方も訴訟提起を視野に入れている可能性が高いです。
ペナルティに関してはこちらの記事で紹介していますのでご参照ください。
正当な請求でないなら反論
調査の結果、正当な請求でないと分かった場合には、反論をしましょう。ただし反論と言ってもけんか腰で対応するわけではありません。こちらの正当な言い分を主張して支払いを拒むだけです。
例えば次項で挙げているような状況にある場合は反論の言い分として成り立ちます。
反論の根拠となる事由例
請求に対し反論をする場合の根拠として、主に以下のような事由が考えられます。
勤務中に業務以外のことをしていた
勤務時間中は従業員が働いているものと考えられます。しかし単に勤務時間中だからといって仕事以外のことをしている者にまで常に賃金を支払う必要はありません。
例えば毎日3時間の残業をしていたものの、その間1時間の休憩を毎日していた場合、残業代の計算から1時間分は除外されるべきでしょう。その証明は容易ではないかもしれませんが、このことを示せれば支払いを拒絶することは可能です。
残業禁止命令に反していた
残業禁止の命令を出していたにもかかわらず残業を繰り返し、その分の請求をしてきたというケースでも支払いを拒絶できることがあります。
ただこの場合、実質的に残業せざるを得ない状況に追い込んでいたのであれば拒絶は難しいでしょう。
逆に残業の必要性がなかった、仕事が残っている場合には管理職の者に引き継ぐようルールが定められていた、といった状況であれば支払いを拒める可能性があります。
管理監督者に該当する
労働基準法上「管理監督者」と呼ばれる立場にある者に対しては、常に残業代の支払い義務が生じるわけではありません。そのため、この管理監督者から残業代の未払いがあるとして請求を受けても拒めることがあります。
そこで、誰が管理監督者に該当するのか、ということが問題になります。例としては以下のような人物が該当し得ます。
- 求人業務に関する権限を広範に有している人事課長
- 大規模な会社の総務を統括している総務局次長
- 従業員の中でも特に大きな給与の支給をされており、多数の従業員の指導する立場にある営業次長
- 支店を統括する立場にある支店長
注意が必要なのは肩書があるからといって常に残業代が発生しなくなるわけではないということです。店長などと肩書を与え、実質的な権限は与えていないにもかかわらず管理監督者に該当するから残業代は支払わないと主張するのは企業にもリスクが生じます。
消滅時効が完成している
過去に支払えていない賃金があったとしても、相手方の請求権を消滅させられる可能性があります。権利が行使できる時から一定期間の経過により、債務者の側から権利消滅の主張ができるというルール(消滅時効)があるからです。
ただしその期間に関しては従来2年とされていたものが当面3年で運用するとの法改正がなされています。詳しくはこちらのページで解説しています。
労基の調査に対する対応
従業員個人が弁護士に依頼するのは少しハードルが高いため、労働基準監督署(労基)に相談することから始めるケースも多いです。労基は、個人の救済を目的に動くわけではありませんが、労働環境に関して違法状態を是正するために動きます。そのためコンプライアンスに反する運営をしている企業だと、賃金の未払いをきっかけに違法状態が発覚する可能性が出てきます。
労基がまず行うのは「調査」です。従業員等の相談を受け、自社にやってきて法に抵触することがないか確認しにやってきます。企業側の取るべき対応としては、敵対せず、素直に応じるよう心がけなくてはなりません。そのほうが短時間で済みます。
逆に、書類の改ざんや虚偽の申告などは絶対に避けましょう。逮捕や送検をされる可能性も十分考えられます。
弁護士に相談して解決を図ろう
実際のところ、
「未払い賃金があるなら支払う」
「請求内容にある賃金が発生していないのなら請求を拒む」
というシンプルな答えのみで対応できるとは限りません。支払い義務があるのかどうか判断が難しいケースもありますし、支払い義務はないかもしれないが支払ったほうが良いケースもあります。
訴訟に発展して敗訴すると、付加金の命令を受けてより大きな支払いをしなければならなくなりますし、手間もかかります。いっそすぐに支払ったほうが全体としての損失は抑えられる可能性もあります。
もしくは話し合いを行い、折衷案で折り合いを付けるという選択肢も視野に入れるべきでしょう。目指すべきは早期解決であり、損得は単純な請求内容のみから判断してはいけません。解決までにかかる期間や、そのことにより生じる間接的な損失なども考慮することが大事です。
最善の方法は各状況に応じて変わってきますので、企業は弁護士に相談して早期解決を図ると良いでしょう。