SNSを有効に利用すればマーケティングやブランディング、求人まで、様々なことに活かせられます。しかし、SNSはリスクを伴うものでもあります。企業アカウントのみならず、従業員個人が発信する内容によっても企業は損害を受ける可能性があり、企業はこのことを踏まえた対策を取らなくてはなりません。
ここでは企業におけるSNSのリスクや、企業が取り組むべきこと、事後対応などを解説しています。
目次
従業員自らSNSにアップする事例が出てきている
YouTubeやTwitterなど、SNSを使えば、大きな組織や著名な人でなくともすぐに情報を拡散できるようになっています。そしてその拡散は情報を発信した本人の意思とは関係なく始まることがあり、一度広まってしまうと取り返しがつかなくなってしまいます。
実際、ある企業の従業員が不適切な行為をし、その様子を撮影してSNSにアップするという事例が何度も発生しています。
不適切な行為をすることは当然問題ですが、ここで特に言及したいのはSNSによる拡散力です。
仲間内で投稿したつもりが世間一般に広まってしまい、その結果、行為者個人だけでなく企業にまで被害が広がってしまうのです。
企業におけるSNSのリスク
一度植え付けられた印象は取り除くことは困難で、たった1人の従業員がした行為によって組織全体へ回復困難な損害が生じます。
企業にとってのSNSのリスクは、①管理をするのが難しいところと、②生じる結果が「イメージの悪化」である、という点にあります。
SNSはワンタッチですぐに情報が発信できてしまい、一瞬で数百人から数千人、影響力の強い人であれば一気に数万以上もの人に情報を届けることが可能です。しかもその情報を受け取った人がさらにその情報を拡散するなど、良いことも悪いことも簡単に世界中に広まります。
発出した情報にはもはや管理を及ぼすことはできず、ただ広がっているのを見届けるしかありません。
場合によっては運営に問い合わせて止めることもできるかもしれませんが、一度出た情報は他の媒体へも拡散され、完全に消すことは難しいです。
また、従業員個人が使うアカウントまで管理するのは難しいという問題もあります。
企業の保有する公式アカウントであれば厳しく運用方法を制限し、勝手な操作を認めないように体制を整えることは可能です。
しかし、一企業が従業員のアカウントにまで介入する権限は持ちません。そういった意味でも管理が難しいといえるでしょう。
生じる結果に関しては色々考えられますが、大きな問題は「イメージの悪化」でしょう。
抽象的で実害の程度を測ることは難しい一方、回復の程度も測ることも困難です。
相当な努力と工夫をしなければイメージを回復させることはできないでしょう。
SNSに関して企業が取り組むべきこと
それでは、不適切な行為をした従業員に対して企業はどのようなことができるのか、SNSのリスクに対しどのような対策を取るべきか、裁判例も参考にしつつ見ていきましょう。
従業員への処分は可能か
まず、行為者が従業員であるかどうかは関係なく、行為の内容が犯罪なのであれば告訴をして刑事処分を求めることは可能ですし、損害が生じたのなら民事裁判で損害賠償請求をすることは可能です。
しかし、それらの手続とは別に、企業が当該行為を行った従業員に対して懲戒処分を行うことは可能なのか、ここが問題になります。
従業員からすれば、プライベートでの行いを理由に降格や解雇を命じられることになり、これを常に認めたのでは不当とも考えられます。
あくまで従業員とは雇用契約上の関係であり、本来的には、必要な労働の提供とそれに対する対価の関係でしかありません。
普段の行いを理由に簡単に減給などをされたのでは労働の意欲もなくなってしまうでしょう。
実際、「私生活上の行為を理由として懲戒処分をすることは原則として不可」と考えられています。
ただ、絶対的に認められないわけではありません。
判例でも、不適切な行為によって企業の体面を著しく汚したとして、プライベートでの行いを理由にした懲戒処分が有効になり得ることを示しています。
ただしここで重要なのはどのような場合に有効になるのか、ということです。
判例では、以下の事情等を総合的に判断すると示しています。
- 行為の性質
- 情状
- 企業の事業の種類や態様
- 企業の規模
- 業界内での企業の地位
- 経営方針
- 従業員の地位や職種
以上を総合的考慮した上で、企業の社会的評価に与える悪影響が重大なら、懲戒処分も有効としています。
SNSの利用に関するルールの策定
SNSの私的利用に対し懲戒処分も可能である旨紹介しました。
しかし、常に処分ができるかどうか、容易に判断できるものではありません。
そこで、企業としてはできるだけSNSによるリスクを下げるためにも、就業規則を整備しておきましょう。
あくまで懲戒処分は事後的な対応ですので、就業規則で懲戒処分があり得ることを定め、それを周知し、SNSの不適切な利用を抑制することが大事です。
なお、プライベートに関する制約は認められないという基本的な考え方は忘れないようにしなくてはなりません。その上で、限定的に、具体的に、懲戒処分をし得ることを定めましょう。