会社設立にあたっては出資が必要です。現金のみならず、不動産や有価証券、自動車などを現物出資することも認められています。しかし現物出資をするには以下で紹介する手続を経なければならず、簡単に出資をすることはできません。
どんな手続が必要なのか、どんな点に注意が必要なのかを理解しておかなければなりません。
目次
会社設立時の現物出資で必要な手続
現物出資をして会社設立することで、様々なメリットが得られます。
しかし面倒な手続が必要になってしまいますし、この点が現物出資のデメリットであるとも考えられています。
必要な手続内容を簡単に分けると以下のようになります。
STEP1:資産の時価を調査する
まずは、現物出資の対象となる資産の時価を調査しなければなりません。
原則としてこの調査は取締役が行います。
しかしながら、一定の要件を満たすときには後述する「検査役による調査」が必要となりますので注意しましょう。ここでポイントになるのは、資産の時価が「500万円を超えるかどうか」です。
STEP2:定款に必要事項を記載する
現物出資をしたことについては、定款への記載が必要です。
そこで以下の情報を記載しなければなりません。
- 発起人の氏名、住所
- 物の種別や製品名・商品名、型番、数量、価格などの資産情報
- 現物出資した者に割り当てる設立時発行株式の数
STEP3:必要書類を準備する
現物出資する資産の種類問わず、共通して必要になる書類が「調査報告書」と「財産引継書」です。
調査報告書とは、現物出資する資産の価額に関する調査内容をまとめ、適正な価額であることを記した書類のことです。
調査は原則として取締役が行いますので、調査報告書も取締役が作成します。
監査役がいる場合には取締役と監査役が共同で作成します。
財産引継書とは、資産を引き継いだことを示す書類のことです。
現物出資した発起人別に作成が必要になります。
その他、現物出資の対象となる財産に応じて個別に準備すべき書類もあります。
STEP4:名義を変更する
パソコンなどを現物出資の対象とする場合には、譲渡をすれば出資したことになりますが、名義の登録をしている有価証券、不動産、自動車などは別途名義変更の手続が必要です。
例えば株式の場合には証券会社や株式発行会社に対して名義変更手続を行う必要があります。自動車であれば陸運局、自動車検査登録事務所に対し登録自動車の移転登録、不動産なら法務局にて所有権移転登記を行わなければなりません。
現物出資の手続に関する注意点
現物出資にあたっては、上の手続を行うことが最低限必要で、さらに以下の点に注意することも大切です。
価額が500万円超なら検査役の調査を要する
出資する物の価額を調査した結果、500万円を超える場合、裁判所が選任する検査役による調査を受ける必要があります。
債権者や株主に対する影響が大きいことから、中立な立場でありかつ専門知識を有する検査役による関与を求めているのです。
ただし、
①現物出資するのが市場価格のある有価証券であり、法務省令で定める方法によって算定されるものを超えない、
②公認会計士・税理士・弁護士等による評価証明書がある(現物出資するのが不動産の場合には不動産鑑定士による鑑定評価も別途必要)、
のいずれを満たすのであれば検査役に調査依頼をする必要はありません。
実際のところ、500万円以下、または上の①②のいずれかに該当して、検査役の調査を必要としないケースも多いですが、検査役が選任されると報酬の支払も必要になりますのでこの点も要注意です。
税務上の処理
現物出資に関しては、出資に係る手続のみならず税務に係る手続も複雑です。
出資者が個人か法人かによって取扱いが異なりますし、出資者側で消費税に関しても留意する必要があります。
例えば個人事業主が現物出資した場合、資産の譲渡に対し有価証券を受け取ったということはつまり「資産の売却により売り上げが生じた」と捉えることができます。
そこで年間売上1,000万円以上の課税事業者の場合には消費税がかかります。
また別の観点となりますが、現物出資の額が大きく資本金の額が一定額を超えてくると、会社が納付すべき税額も変わってきます。無駄に大きな資本金額にすると税負担が増えてしまいますので、資本金の大きさが与える影響について多方面から考慮していく姿勢が必要となります。
詳しくは税理士に相談しつつ出資方法・出資額を検討していきましょう。
合同会社では検査役の調査は不要
株式会社では出資する物の価額が一定額を超える場合などでは検査役の調査を要すると説明しました。検査役による調査制度が義務付けられていることにより、設立に要する期間、コストともに大きくなってしまいます。
しかしながら、合同会社には同制度が適用されないため、こうしたデメリットがありません。
合同会社の場合、定款の認証が不要になることから認証手数料が不要になりますし、設立登記にかかる登録免許税の最低額も株式会社に比べて低額です。そしてさらに現物出資に関しても株式会社よりやりやすくなっています。
低コストで、小規模の会社をスタートさせたい場合には合同会社も選択肢に入れると良いでしょう。