起業する際、どのような事業をどのように展開していくのかの戦略策定、ターゲットとなる顧客や市場の調査などはとても大切なことです。しかし株式会社として設立するのであれば、内部統制の観点から株式の取扱いにも着目する必要があります。
特にここで紹介したいのは「持株比率」についてです。
持株比率の構成が企業経営にどのような影響を与えるのか、議決権等との関係について解説していきます。
目次
持株比率別の権限
株式会社は保有株式の数に応じて議決権やその他権限の有無およびその大きさが決まります。
重要なのは「株式の数」というよりも「発行済み株式に対する割合」です。以下で権限に差が出るライン別に説明をしていきます。
【100%】あらゆる権限を持つ
100%の株式を保有する場合、会社の意思決定をすべて行うことが可能です。
1人で起業をした場合には、他に出資者・投資家の存在がなければ基本的に100%を経営者である自身が持つことになります。
【2/3以上】重要事項の決定権を持つ
「持株比率2/3以上」となるかどうかは非常に重要なポイントです。
なぜなら株主総会における決議のうち、特に重要な事項を決める際に求められる特別決議の要件を満たすことができるからです。
会社法でも以下のように定められています。
次に掲げる株主総会の決議は、当該株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(三分の一以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の三分の二(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上に当たる多数をもって行わなければならない。
引用:e-Gov法令検索 会社法 第309条第2項一部抜粋
(https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=417AC0000000086)
例えば以下のような事項に関する決議をすることができます。
- 定款の変更
- 募集株式の募集事項等の決定
- 監査役の解任
- 株式の併合
- 事業の譲渡
- 資本金額の減少
- 譲渡制限株式の買取り
- 譲渡制限株式についての相続人等への株式売渡請求
- 役員についての損害賠償責任の一部免除
- 組織再編
- 解散
定款は会社の根本原則となるものであり、このルールを変えられるというのは社内で非常に大きな権限を持つことを意味します。
そこで創業者なのであればできるだけ2/3以上の株式を保有することが望ましいです。ただし必ずしも代表の1人が2/3以上を占有する必要はありません。リスクにはなりますが、少なくとも信頼できるメンバー間で2/3以上を持つことができていれば安定した経営は実現できます。
【1/2超】基本事項の決定権を持つ
「1/2を超える」議決権があれば、株主総会における普通決議で可決させることができます。
会社法でも以下のように規定が置かれています。
株主総会の決議は、定款に別段の定めがある場合を除き、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数をもって行う。
引用:e-Gov法令検索 会社法 第309条第1項
(https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=417AC0000000086)
特別決議に関わる事項までは権限を持ちませんが、企業活動をする上で頻繁に取り扱う問題につき決定権を持つことができます。
そのため2/3以上を持つことができなくても、1/2を超える持株比率を持っているのであれば当該会社の意思決定をする立場にあると言うことができるでしょう。
普通決議で定めることができる事項の例として以下が挙げられます。
- 剰余金の配当
- 取締役や監査役の選解任
- 取締役や監査役の報酬の変更
- 会計監査人の選任
- 計算書類の承認
なお、1/2を「超える」という点には注意しましょう。
条文でも「過半数」という表現を用いているように、50%ぴったりの議決権では確実な普通決議の支配はできません。起業後の経営権を得たいのであれば、50%を超える持株比率で設定するようにしましょう。
【1/3超】重要事項の決議に関する拒否権を持つ
上述の通り、2/3以上の議決権があれば特別決議を成立させることが可能です。
その裏返しとして、1/3を超える議決権を持つのであれば特別決議を不成立とさせることが可能です。
そこで複数人で起業をする場合、「ある人物につき強い権限は与えないものの、重要事項に関しては拒否できる権限を与える」といった設計が可能です。
【3%以上】会社に対する抑止力を働かせられる
数%の持株比率しかない場合、単独で普通決議を成立させることはもちろん、特別決議の拒否も単独ですることができません。そのため社内で支配的な立場にあると言うことはできません。
しかし3%以上を保有しているのであれば、一定の抑止力を働かせることはできます。
株主総会の招集の要求ができますし、帳簿の閲覧請求権や取締役の解任請求権も持つからです。さらに検査役の選任の請求をすることもできます。
帳簿の閲覧により経理状況が把握されますし、役員等としては3%以上を持つ株主に監視されているような状態になります。
起業時に着目すべき持株比率
複数人で株式会社での起業を考えているのであれば、持株比率については慎重に考える必要があります。
3人で起業するからといって短絡的にそれぞれ1/3と決めるべきではありません。意見が分かれたときに普通決議もスムーズに可決させられなくなり、機動的な企業活動が阻害されていまいます。
特に着目すべき持株比率は「2/3以上」「1/2超」です。
創業者間でも先導者がはっきりしているのであればその人物が2/3以上を持つことを検討しましょう。創業者それぞれに経営者としての意識があり、経営に口出しをする立場にあるのであれば、1人に2/3以上を持たせるのではなく1/2超に留めておくというのも1つの手です。
最初に持株比率の設定を適切に行っておくことで、将来のトラブルの予防にも繋がります。弁護士などの専門家の力も借りつつ最適な形で定めるようにしましょう。