【裁量権が関係?】この会社フレックスじゃないんですか?

この記事は2020年12月4日に書かれました。

新型コロナウィルスの影響で初めてテレワークを導入した会社が多いみたいですね。

仕事だけでなく、プライベートな付き合いでも「オンライン飲み会」などWeb会議システムを使う機会がも増えてきたようです。

実は、新型コロナウィルスによる就業スタイルへの影響はテレワーク に限ったことではなく、他の就業スタイルや制度にも影響を与えています。

   

それが、フレックスタイム制の導入です。

   

フレックスタイム制(以下「フレックス」)とは「従業員が日々の始業・終業時刻を自身で決定して働く事ができる制度」のことで、要は、原則として働く時間帯に制限を設けない仕組みです。

フレックスの導入による効果は従業員の裁量拡大だけでなく、「自由に働ける会社」として採用時にも役立つことがあります。

   

しかし、このフレックスの良い面だけに注目して、とりあえず導入する会社が多く、正しく運用されていない実態があります。

   

そんな「なんちゃってフレックス」な会社に起きたトラブルをみていきましょう。


とある会社の新入社員研修。

   

人事さん「皆さん、ご入社おめでとうございます。新社会人の皆さんには、無限の可能性があります。本日から、そんな皆さんと一緒に働けることを嬉しく思います。それでは、『自由と自律』がモットーの我が社における制度について説明します」

   

新卒くんA「(『自由と自律』か〜。確かにこれからは自由な働き方の中で、どれだけ生産性を高められるかが大事って本に書いてあったよな。よし、まずは会社のルールをしっかり理解して、自分らしく頑張るぞ!)」

   

人事さん「我が社のモットーである『自由と自律』のとおり、完全フレックスタイム制を採用しています。何時に出社してもいいですし、場合によっては出社しなくて良い日を作ることも可能です。ただし、1ヶ月間のそう労働時間が少ない場合はお給料が減ってしまいますので、気をつけてくださいね。ここまでで何か質問はありますか?」

   

新卒くんA「はい!もし夕方に出社したり、出社しない日には上司に伝えますか?」

   

人事さん「そうですね。毎日のスケジュールは、出社しない日も含めてスケジューラーに入力して頂きます。また、当日の9時までに「本日は●時に出社します」と上司に電話かメールをしてください

   

新卒くんA「は、はい。と言うことは、毎日9時には起きないといけないんですね」

   

人事さん「はい、そうなりますね。ホウレンソウは社会人の基本ですので、お願いしますね」

   

新卒くんA「分かりました…」

   

人事さん「それでは、次に進みます。毎週月曜日は8時30分から朝礼があるので、この時間は必ず出社してください。あと、毎週水曜日は18時から勉強会がありますので、入社後3ヶ月間はこちらも必ず出社するようにしてください

   

新卒くんB「もし朝礼や勉強会に出席できなかった場合はどうなりますか?」

   

人事さん「遅刻・欠勤した場合は減給になりますし、人事評価にも影響しますので気をつけてください」

   

新卒くんB「ちょっと待ってください。この会社、

フレックスじゃないんですか?

働く時間帯が自由なはずなのに、減給や人事評価に影響するなんておかしくないですか?」

   

人事さん「そうは言っても、会社のルールなので。逆に言えば、毎週月曜と水曜だけ気をつければあとは自由なんですよ」

   

新卒くんB「そう言われればそうですが…。でもこれって本当に正しいのかな…」


さて、この会社のフレックスは適切だと言えるでしょうか。

   

   

   

A:適切

B:適切でない

   

   

   

正解は…

   

   

   

B:適切でない

理由①裁量権のない新卒に適用している

理由②毎日、出社時間や出社日の報告が求められている

理由③参加が義務付けられている日・時間がある(参加しないと不利益を受ける)

   

   

   

理由②と③の違和感については、読んでいる皆さんも感じていたのではないでしょうか。

③は明らかにNGな運用ですが、②をやっている会社は多くあります。

   

そもそもフレックスは「自由」でないといけませんから、出社時間や出社日を報告したり、承認を取ったりするルールは適切とは言えません。

もし、今回のように参加が義務付けられている朝礼や勉強会があるのなら、フレックスの中でも出社しないといけない時間「コアタイム」を設ける必要があります。

   

意外と見落とされがちなのが、理由①です。

   

フレックスは「自由」である代わりに、「この日は9時には出社しないと納期が間に合わないな」「今週の感じをみていると、金曜日は出社しなくて良さそうだな」といった感覚や、それを実行するまでの実質的な裁量権が必要になります。

新卒社員の場合、この辺りの感覚をまだ持ち合わせていないのが一般的なため、どうしても上司に伺う必要が出てきます。

そのため、新卒社員には実質的な裁量がなく、つまり、フレックスを適用するにはまだ早い(適切ではない)と判断するのが良いでしょう。

   

この場合は、就業規則のフレックス条項に「入社●ヶ月以内は適用しない」旨を記載することをお勧めします。

このような書き方にしても、新卒社員を不利益に扱っていることにはならず、むしろ労基署からは「まともな感覚を持っている」と判断されます。

   

自由と自律を体現したフレックスですが、法律には載っていない「普通に考えたらそうだよね」と言う感覚も大切に、適切に運用していきましょう。