時効期間に注意!未払い賃金について企業の取るべき対応や注意点を解説

企業としては、賃金の未払いができるだけ起こらないようにしなくてはなりません。法令に抵触しないことはもちろん、労働者と締結した契約内容に準拠し、きっちりと残業代なども含めて支払いがされていなければなりません。

しかし何年も前に賃金の未払いがあったと主張されても、真偽が不明、支払いが困難な経営状態、といった状況も考えられます。

そこで以下では、未払い賃金に関する「時効」に着目して、企業が取るべき対応を解説していきます。

目次

未払い賃金に関する時効は3年へ

まず、未払い賃金の請求権は消滅時効に係るということを説明しておきましょう。

従来、支払い期日を起算日として2年が経過した上で、企業側が消滅時効を援用することで権利が消滅すると定められていました。

しかし民法改正および労働基準法の改正(2020年施行)により、運用が変わりました。

「時効期間を『2年』から『5年』に変えるとしつつ、当分は『3年』とする」

という内容になったのです。

改正内容についてはこちらのページへ

つまり、労働者がより長く権利の主張ができるようになっており、企業としてはその分管理や支払いに関する負担が増えることになりました。

また、時効に関する用語や、時効期間を止めるための方法(後述)なども変更されており、要注意です。

未払い賃金に対して企業が取るべき対応

未払い賃金が存在する場合、企業としてまず取るべき対応はきちんと支払うということです。トラブルにもならず、コンプライアンスの観点からも望ましい対応です。

しかしこれは未払い賃金の存在が認められる場合の話です。そのため自社内で把握されている未払い分を自主的に解消するのではなく、労働者から請求を受けてこれに対応するという場合には、まずその真偽を確認することから始めなくてはなりません。

そこで未払いの事実確認および金額が正しいかどうかの確認を行います。これは労働者を懐疑的に見ているわけではなく、株主や債権者など、多数の利害関係者を持つ企業として行うべきことなのです。その点、労働者側にも理解してもらうことでトラブルへの発展を防ぎやすくなるでしょう。

未払い賃金の存在が確認できた場合、支払えるのであれば直ちに支払い、まとまった支払いが難しいのであれば分割払いなどの交渉を行いましょう。

他方、存在自体は確認できたものの、期日から2年もしくは3年を経過しているのであれば「時効援用」の手段も検討しましょう。
・改正内容が適用される2020年4月1日以前に発生したものなら従来通りの2年
・2020年4月1日以降に発生したものなら3年
の経過により消滅時効に係ります。

時効援用の方法

援用方法に関して難しく考える必要はありません。
単に「時効の期間を過ぎているから支払わない」旨伝えれば足ります。
しかし言った言わないの問題が生ずることもありますので、その意思表示は必ず内容証明郵便にて行いましょう。

未払い賃金の請求等で時効完成が妨げられるため注意

時効期間を過ぎていることが確かであれば、援用により消滅させられ、もはや企業が支払い義務を負うことはなくなります。

しかしこの時効期間も絶対的なものではありません。完成間近でその進行を止められることもありますし、ある時点から、一からカウントし直されることもあります。

そこで、どのような場合に時効の進行を妨げられるのか、知っておくことが大事です。

一時的に時効が完成しないケース

一定期間に限り時効が完成しなくなる事由をまずは挙げます。

一つは「催告」です。
労働者側から請求書が送られてきたり、直接支払いを求められたりすれば、この催告にあたりそこから6ヶ月間は時効が完成しなくなります。この効果のことを「時効の完成猶予」と呼びます。
※催告が繰り返されても、この効果が何度も生じるわけではない

次に「裁判上の請求」についてです。
労働者から未払い賃金に関して訴えの提起がなされた場合のことです。このときも催告同様の効果が生じ、6ヶ月間は時効が完成しなくなります。

また、「協議を行う旨の合意」をすることでも完成猶予されることが法改正により定められています。
催告や裁判上の請求では対立関係にありますが、こちらは双方が話し合いにより解決を図ろうとしている状況です。原則、協議に合意がなされた場合には1年間、合意が得られなかった場合には6ヶ月間猶予されます。

時効期間が再スタートされるケース

前項の完成猶予とは異なり、時効期間が再スタートを切ることを「時効の更新」と呼びます。更新事由が発生すると援用ができる時期も相当に伸びることになります。

更新事由の一つは「承認」です。
要は請求権の存在を認める行為のことです。そのため請求できることは認めつつ期間が経過し、期日から2年もしくは3年後に援用するということはできないのです。
そしてこの承認と認められる行為には、

  • 支払いの猶予を求める
  • 減額を求める
  • 利息の支払い
  • 一部の弁済

なども含まれますので、安易にこれらの行為をしないよう注意が必要です。

また、「判決の確定」でも更新されます。
完成猶予が起こるケースとして「裁判上の請求」を挙げましたが、その後請求権が認められ、その判決が確定した場合には更新の効果が生じて時効期間は振り出しに戻るのです。
同様に、

  • 裁判上の和解
  • 民事調停の成立
  • 家事調停の成立

などでも更新の効果は生じます。

以上で、未払い賃金に関する時効のことを解説してきましたが、最終的には様々な事項を考慮した上での経営判断が必要になるでしょう。金銭的な損得のみならず、援用することによる影響、労働者と訴訟問題に発展するリスクなど、企業イメージ等も考慮しなくてはなりません。