この記事は2020年12月2日に書かれました。
今回は、管理監督者について考えましょう。管理監督者とは、簡単にいうと「一定の権限や地位、給与をもらっており、労働時間に縛られない性質を持っている人」のことです。
つまり、残業しても残業代が出ない人です。残業代を出さなくていいことを逆手に、管理監督者をいい加減な基準によって決めていると、痛い目にあいます。
そんな「なんちゃって管理監督者」に関する事例をみていきましょう。
日本マクドナルド事件
東京地裁 平成20年1月28日判決
【主張】
M社の店長であったAさんは、M社に対し、店長職が労働基準法上の管理監督者にあたらないと主張して、時間外割増賃金および休日割増賃金、付加金の支払いを求めた。
【経緯】
・店長という役職は、正社員にいて8つの階層に分かれているうちの上から5番目に相当する地位とされていた。
・店長には自らの出退勤に関する一定の権限を有していたが、部下であるシフトマネージャーが欠勤する場合は必ずシフトに入らなければならず、シフトマネージャーとしての職務を行う義務があった。
・結果として長時間労働にもかかわらず残業代が一切支払われず、部下と賃金の逆転現象が起こることもあり、不満を感じたAさんは訴えを起こした。
【なぜ会社は負けたのか?】
❌店長の職務や権限は店舗内に限られており、経営に関する重要な職務と権限を有していなかった。
➡︎管理監督者として、職務内容、権限、責任が相応しくないと判断
❌形式上は出退勤時間を自由に決められるが、ほぼシフト制によって働かざるを得ない状況にあった。
➡︎実態として、労働時間に関する裁量を有していないと判断
❌1ヶ月の賃金を時給換算した際、時間給が部下と逆転する現象が常態化しており、手当ても十分とはいえなかった。
➡︎管理監督者としての待遇が不十分であると判断
【会社はどうすれば良かったのか?】
⭕️管理監督者としてふさわしい権限や待遇を検証する
⭕️管理監督者制度の代替案を検討する
この判例をきっかけに、厚労省から通達「多店舗展開する小売業、飲食業等の店舗における管理監督者の範囲の適正化について(平20.9.9 基発090001号)」が出ており、そこに記載されている3つの要件では、
①経営と一体となっていること
②勤務態様は形式ではなく実態で判断すること
③十分な報酬を与えること
が重要であるとされています。
つまり、「名ばかり管理職として残業代を支給しないのではなく、きちんと実態に即して判断し、管理監督者とするならふさわしい権限や報酬を与えましょう」ということになります。
また、残業代を抑えたいのであれば、管理監督者制度の代わりに固定残業代を導入するのも有効です。
そもそも管理監督者には、「残業代は給与総額に含んでいる」という認識はあったはずなので、「残業代は全て込み」というお互いの暗黙の了解を適法化する方法として、固定残業代制度を活用するのは違和感がありません。
実際に支給する給与総額は変わりませんが、「残業代が払われていない!」という主張は退けられそうですね。
残業代に関する案件はこれまで数多く争われていますが、その多くが会社不利な判決となっているため、争わないことを目指し、今一度会社の制度を見直すことをお勧めします。