この記事は2020年11月30日に書かれました。
今回は、労働時間についてみていきましょう。
2020年4月から本格的な働き方改革関連法が施行されましたが、今回の改正で一番の肝となる部分がこの労動時間ではないでしょうか。
長時間労働をなくすことがメインの目的ですが、意外と忘れがちなのが「どこまでが労働時間なのか?」という観点です。
労働時間とは何か、という定義について、実は労働基準法には明記がないのです。
しかし、最高裁で労働時間を定義付けた判決が出ており、それ以降はこの判例による定義が基準になっているため、実際の事例をみていきましょう。
三菱重工業長崎造船所事件
最高裁 平成12年3月9月判決
【主張】
M社の従業員であるAさんら27名は、作業服・保護具の装着時間が労働時間でに該当するとして、その時間に相当する賃金の支払いを求めた。
【経緯】
・Aさんらは実作業にあたり、作業服の他に保護具、工具等の装着を義務付けられていた。
・装着は所定の場所で行うものとされており、これを怠ると人事考課に影響して賃金が減少したり、懲戒を受ける場合があった。
・現場作業従事者は、就業時間前に材料等の受け出しを済ませておくよう義務付けされていた。
【判決】
作業服および保護具等の装着時間、更衣所または控所から現場までの移動時間、材料等の受け出し時間、作業服および保護具の離脱時間が、労働時間に当たると判断した。
【なぜ会社は負けたのか?】
❌作業服および保護具等の着脱まで義務付けられていた。
➡︎着脱に一定以上の時間が必要であるため、労働時間性があると判断
❌場所まで指定されていた。
➡︎会社内の特定の場所を指定して準備行為を行わせていたことが、使用者の指揮命令的要素があると判断
❌不利益条項が規定されおり、この条項が実際に機能していた。
➡︎懲戒処分等の不利益を課していることから、使用者の指揮命令下にあると判断
【会社はどうすれば良かったのか?】
⭕️準備行為等について、労働時間性があるか否かを個別に検証する
⭕️準備行為等に要する時間を労働時間とする場合の取り扱い(固定残業代の導入、休憩時間の見直し等)について検討する
今回の事例では、
①その準備行為は強制か、任意か
②準備行為を行うために相当の時間を要するか
という論点に着目していました。
そもそも着替え時間は原則として労働時間ではありませんが、その着替えの程度によっては労働時間に該当するというものです。
ジャケットを羽織るだけなら5秒程度で済みますが、防護服を着用して全身を消毒するような工程があれば、まず強制であり、自分の家ではできず、相当の時間がかかることから、労働時間性が高いと判断できます。
また、「何が労働時間に該当するか」は個別に判断することとされているため、会社で義務化されている作業をチェックリストを作成し、一つひとつ検討する必要があります。
今回の法改正に伴って残業時間の見直しや作業効率のを上げることも大切ですが、まずは「何が労働時間に該当するか」を今一度確認し、その行為は本当に必要か?代替策はあるか?をよく考えましょう。