この記事は2020年12月1日に書かれました。
今回は、残業について考えましょう。2020年4月の法改正により、多くの企業が残業を減らす取り組みをしていますが、実態は持ち帰り残業が増えて、以前よりも労働時間が増えてしまったなんてことを耳にします。
そんな持ち帰り残業など、記録にはない残業が労働時間として認められた事例をみていきましょう。
ゴムノイナキ事件
大阪高裁 平成17年12月1日判決
【主張】
AさんはG社に対し、平日の所定労働時間外勤務や休日勤務に対する賃金が未払いであると主張して、超過勤務手当等の支払いを求めた。
【経緯】
・G社は、タイムカード等を用いた出退勤管理を行っていなかった。
・超過勤務手当の支給に際し、事前に所属長へ「残業許可願」を提出し、許可を得るよう規定されていた。
・仮に「残業許可願」が提出されずに残業していたとしても、提出を求めたり、積極的に退勤するよう声掛けをすることはなかった。
・G社における残業は、「その日までに終わらせなければならない業務」を原因として残業するケースがほとんどであった。
・Aさんの妻は、Aさんの帰りが遅いことを心配し、毎日帰宅時間をノートに記載していた。
【なぜ会社は負けたのか?】
❌タイムカードによる出退勤管理をしていなかった。
➡︎「労働時間の把握」という会社としての責務を果たしておらず、会社側の証拠は不十分であると判断
❌無許可残業をしている従業員を放置していた。
➡︎無許可残業が常態化していることを把握しておきながらこれを放置しており、本来は速やかに帰宅を促すべきであったと判断
【会社はどうすれば良かったのか?】
⭕️厚生労働省の通達に従って、労働時間管理を行う
⭕️無許可残業を厳格に取り締まる
この事例の大きな問題点である「労働時間の把握」ですが、厚生労働省の通達「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準(平13.4.6基発339号)」では、原則として、下記の3つの方法が示されています。
①労働者が、自ら始業・終業時刻を確認し、記録する
②使用者が、自ら現認することにより確認し、記録する
③タイムレコーダー等客観的な記録を確認し、記録する
また例外的な方法として「自己申告」による労働時間の把握も可能ですが、この場合でも3つのルールが定められています。
①適正に自己申告を行うための説明を行う
②自己申告による労働時間と実際の労働時間が合致しているか否かについて、実態確認を行う
③自己申告できる労働時間に上限を設けない
いずれにしても、しっかりと労働時間を記録し、その記録に頼るだけでなく実態確認まで行うことが求められています。
無許可残業の撲滅にあたっては、下記のような様々な方法が考えられるため、同様の制度を導入されている場合はご参考になさってください。
・ノー残業デーの設定
・文書による残業禁止命令の周知
・退勤を促すアナウンスの放送
・自動的に消灯・施錠される仕組み
労働時間の把握は会社の義務として課せられていますが、それ以上に、いざというときに備えてしっかりと対策を取っておく必要があります。