この記事は2020年12月1日に書かれました。
今回は、固定残業代について考えましょう。
みなさんの会社は、固定残業代を導入していますか?困ったときの固定残業代、と考えていませんか?固定残業代を導入している会社が急激に増えてきていますが、正しく運用できている会社は約9%です。
頼みの綱だと思っていた固定残業代に苦しめられた事例についてみていきましょう。
ザ・ウィンター・ホテルズインターナショナル事件
札幌高裁 平成24年10月19日判決
【判決】
W社の社員であったAさんは、合意のない賃金減額と残業代の未払いを求めた。
【経緯】
・W社はAさんに対し、固定残業代の導入と賃金減額したい旨を告げ、賃金月額の内訳である基本給と職能手当の具体的な性質を説明しなかったが、Aさんは納得のいかないまま、合意とも拒否とも取れない態度で「分かりました」と返答した。
・減額された給与の支払いが始まったが、Aさんは特段抗議せずそれを受領しており、W社から新しい労働条件通知書に記名・捺印を求められ、指示に従った。
・AさんはW社より、さらに基本給を減額する旨を告げられたが、Aさんは一方的な減給に対し強い反発を覚え、同社を退職した。
・Aさんは退職後、W社に対し未払い残業代の四球を請求するとともに、合意のないまま賃金を減額されたとして差額分の支払いを求めた。
【なぜ会社は負けたのか?】
❌固定残業代が「95時間相当」である旨が明記されていなかった。
➡︎「無制限な定額時間外賃金に関する合意」と判断
❌残業95時間を超えた場合の残業代を支給していなかった。
➡︎「無制限な定額時間外賃金に関する合意」と判断
❌「こいつには職務手当分の残業をさせろ」との発言があった。
➡︎発言内容は安全配慮義務に欠けており、職務手当の支給によって残業を義務付けていたと判断
【会社はどうすれば良かったのか?】
⭕️労働時間通知書、就業規則、給与明細に「●時間相当」と記入する
⭕️固定残業代を超過した時間分の残業代を支給する
⭕️適切な労働時間管理を行う
今回、W社は減額について1対1の面談でしっかり説明していますし、Aさんの「分かりました」という発言と記名・捺印を取得したにもかかわらず、会社は負けてしまいました。
最大の敗因は、ひとえに「固定残業代が何時間相当なのか記載されていなかった」ことにあります。
固定残業代の相当残業時間に関する記載がない労働時間通知書への記名・捺印に対し、裁判では「時間外労働が何時間発生したとしても定額時間外賃金以外には時間外賃金を支払わないという趣旨で定額時間外賃金を受給する『無制限な定額時間外賃金に関する合意』がなされていた」と解釈しています。
つまり、固定残業代が「●時間相当」と記載されていなかったことにより、「何時間残業しても固定残業代以上の残業代は出ない」とみなされたことになります。
固定残業代については、平成24年3月8日の最高裁で下記の3要件を満たす必要があるとされています。
①固定残業代が導入されている旨が雇用契約上明確になっている
②支給時に、相当する残業時間数と金額が明示されている
③固定残業時間数を超えた場合は別途上乗せで残業代を支給する旨が明らかである
固定残業代をどにゅうする際は、労働条件通知書、就業規則(または賃金規定)、給与明細、募集条件に相当する時間数と金額、超過分の支給がある旨を記載することをお勧めします。
また、大変恐ろしいことですが、仮に導入した固定残業代が違法とみなされた場合、「固定残業代を含んだ金額×割増率」の未払い残業代を支給しなくてはなりません。
導入の際はしっかりと要件を確認し、後々リスクにならない運用を心がけましょう。