【ベンチャー企業】ミドルステージにおけるコーポレート体制の見直しと法律

ベンチャー企業に限らず、組織の機関構成は非常に重要です。
しかし、一般的な企業に比べて成長スピードが速いベンチャーでは、あるべき機関構成の移り変わりも速いです。
成長ステージに見合ったコーポレート体制が整っていなければ望むような出資も得られません。

そこで、この記事ではミドルステージにおけるベンチャー企業がどのような機関構成を採るのが望ましいのか、また、法律上各機関にはどのようなルールが課せられているのか、解説していきます。

目次

ベンチャー企業にとっての機関構成の重要性

日本の法律では、企業の機関構成の自由度は比較的高く、経営者がある程度好きなように設計をしていくことが可能です。

ただ、ベンチャー企業の場合には資金調達の観点から機関構成には配慮が必要です。

特にVCの存在は大きいです。
VCが見て安心できるような体制が整っていなければ、投資をしてもらえません。

取締役が独断で資金を使えるような状況を避け、社内で相互に監視できるようにしておくのが望ましいです。

そこで、少なくとも監査役1名の配置を要求されることも多いです。

会社法上常に設置が義務付けられている機関ではありませんが、ベンチャー企業が自社の健全さをアピールするために重要です。

ミドルステージにおける機関設計の見直し

上のように監査役等を設置するのが理想ですが、シードステージなど、スタートアップ当初では迅速な意思決定のためにこれを設置しないことも珍しくありません。

ただ、ある程度事業が軌道に乗ってきたミドルステージにおいてはそうもいきません。

ワンマンではなく、複数人の経営者が慎重に意思決定を行い、また監査役もチーム体制を取るなど、規模の拡大に応じて経営の体制も拡大していかなければなりません。

そこで、規模が大きくなったミドルステージにおいては以下の組織形態を検討することになります。

  • 取締役会
  • 監査役会
  • 会計監査人

そこまで規模が大きくなければ取締役会監査役でもかまいませんが、資本金や負債が一定額以上に達し、会社法上の「大会社」に該当するケースでは会計監査⼈の設置が法的に義務付けられます。

また、監査役会を設置することでよりコンプライアンスの徹底も図ることが望まれます。

特に上場を意識しているのであれば、監査役ではなく監査役会、そして会計監査人も設置して、上場前から体制を整えておくようにしましょう。

機関別のルール・法律

それでは、上場も意識し始めるミドルステージにおいて設置の重要性が増す「取締役会」「監査役会」「会計監査人」について、法律上(会社法)のルールを簡単に説明していきます。

取締役会

まずは取締役会についてですが、これは企業の経営を仕事とする取締役の合議体です。

会社の「業務執行機関」とも言われます。

取締役会は取締役全員から構成されており、主に以下のことを行います。

  1. 業務執行の決定
  2. 取締役の監督
  3. 代表取締役の選定・解職

また、業務執行の決定に関しては例えば以下のような事柄を扱います。これらの事柄は取締役個人に委任ができず、必ず取締役会の決議を経なければ企業としての意思決定ができません

  • 重要な財産の処分・譲受
  • 多額の借財
  • 支配人など、重要な使用人の選任・解任
  • 支店など、重要な組織の設置・変更・廃止
  • 定款の定めに基づく、役員等の会社に対する責任の免除

各取締役は、その他の取締役の職務執行につき監督をすることになり、代表取締役も自己の職務執行の状況を取締役会に報告しなければなりません。

そこで、原則3ヶ月に1度、取締役会を開催しなければなりません。

この義務を果たさなければ、各取締役は任務を怠ったとして会社から損害賠償を請求される可能性があります。

監査役会

監査役会は、会社の業務監視を行う監査人の合議体です。

そもそも監査役は、取締役の職務執行につき適法かつ定款に背いていないかどうかなどを行う役員です。

そして規模の大きくなる大会社においてはこの監査の水準も上げる必要があることから、大会社では監査役ではなく監査役会の設置が義務付けられています(一部例外を除く)。

監査役会設置会社においては監査役が3人以上必要で、しかも、その半数以上は「社外監査役でなければなりません。

監査役会では、常勤の監査役の選定・解職、監査報告の作成、監査の方針等に関する決定などを行うとされていますが、各監査役はその性質上独立して監査権限を有しています。

このルールがあることで、より監視の効果の実効性を確保しているのです。

会計監査人

会計監査人はその名の通り、会計の監査に特化した機関です。

同じく会計に特化した機関として「会計参与」がありますが、会計参与が取締役のパートナーとなって内部から会計に関わるのに対し、会計監査人は会計の適正性を外部から監視するのが役割です。

そのため会計参与が設置されている会社よりも、会計監査人が設置されている会社のほうが第三者から信頼を得やすいと言えます。

ただし、外部の公認会計士や監査法人に頼ることになり、大きなコストが必要となるでしょう。

会計監査人はその職務として、会社の計算書類等のチェックを行います。

そのため経営方針などには口出しできませんが、計算書類等に関してのみ、株主総会で意見を述べる権利が与えられています。

その反面、不正行為や法令違反、定款違反など、重大な事実を発見したときには遅滞なく監査役に報告をする義務を負っています。