就業規則の作成は会社が主導して定めていくことができます。しかし完全な自由というわけにはいきません。法令に抵触するルールにしないことはもちろんですが、必ず記載をしなければならない「絶対的必要記載事項」というものがあります。
この記事では、絶対的必要記載事項にはどのような事項が含まれるのか、記載例も挙げて具体的な策定方法を解説していきます。
目次
就業規則の絶対的必要記載事項とは
就業規則は各職場で適用される労働条件を規律したものです。事業場の労働者が10人以上いる場合には、使用者である会社は就業規則を策定しなければなりません。
策定手続・届出などの流れについてはこちらの記事で説明しています。
そしてこの規則に記載する事項は「絶対的必要記載事項」と「相対的必要記載事項」に分類することができ、前者に関しては就業規則として成立させるために記載が欠かせません。
※相対的必要記載事項についてはこちらのページで解説
後者に関してもその効力を生じさせるためには記載が必要ですが、絶対に策定しないといけない類のものではありません。
そこでこれから就業規則を策定しようと考えている方は、まず絶対的必要記載事項について理解しておくことが大事と言えます。
絶対的必要記載事項の一覧
絶対的必要記載事項は以下の通りです。
- 労働時間関係(始業・終業の時間や休憩時間、休日、交代制勤務に関することなど)
- 賃金関係(賃金の決定や計算、支払方法とその時期、昇給に関することなど)
- 退職関係(定年退職や任意退職、解雇に関することなど)
絶対的必要記載事項①:労働時間に関する定め
まずは労働時間に関する策定方法・記載例・注意点などを説明していきます。
労働時間と休憩時間について
労働時間や休憩時間について注視すべき点はこちらです。
- 1日の労働時間は上限8時間
- 労働時間は週あたりの上限40時間
- 労働時間の特例措置として、商業・映画(製作を除く)や演劇業・保健衛生業・接客娯楽業であって、労働者数が10人に満たない事業場なら週44時間まで認められる
- 休憩時間は、1日の労働時間が6時間超となるなら最低45分、8時間超となるなら最低1時間が必要
- 休憩時間の使い方は労働者の自由させなければならない(会社側の指示を受けてしまうと労働時間にあたる)
―――――――― 記載例 ――――――――
(労働時間及び休憩時間)
第〇条 労働時間は、1週間あたり40時間、1日あたり8時間とする。
2 始業・終業の時刻、休憩時間は、次のとおりとする。
始業:〇時〇分
就業:〇時〇分
休憩時間:〇時〇分から〇時〇分まで
休日について
休日に関しては、「週に1回以上」または「4週間で4日以上」を確保しなければなりません。
なお、祝日や日曜日を休日としなければならないといったルールはありませんし、毎週同じ曜日を休みにする必要もありません。
―――――――― 記載例 ――――――――
(休日)
第〇条 休日は、次のとおりとする。
① 土曜日および日曜日
② 祝日(日曜日と重複したときは翌日とする。)
③ 年末年始(〇月〇日~〇月〇日)
④ 夏季休日(〇月〇日~〇月〇日)
⑤ その他会社が指定する日
絶対的必要記載事項②:賃金に関する定め
賃金に関しては、就業規則とは別個の規程として策定することも可能です。ただしその場合は当該規程が就業規則の一部として扱われますので、労働基準監督署長への届出の際に併せて提出しなければなりません。
基本給について
基本給は、職務内容や職務遂行の能力、その他勤続年数や年齢、資格、学歴など属人的要素を考慮し、公正に決めなければなりません。
また、最低賃金法に基づく最低賃金以上の賃金を支払わなければなりません。
ただし基本給は月給として定める必要はなく、日給や時間給で設定しても問題はありませんし、手当に関しても会社側の自由に定めることができます。住宅手当や職務手当など、手当の有無や金額については各事業場の裁量で決めることができます。
―――――――― 記載例 ――――――――
(基本給)
第〇条 基本給は、本人の職務内容や技能、実績等を考慮して個別に決定する。
賃金の支払いについて
賃金は、“通貨”で“直接労働者”に“全額”を支払わなければなりません。
ただし、所得税や住民税、さらに協定にて控除しても良いと定めたものについては、控除をした上で支払うことが認められています。
※協定により控除可能なものは社宅の使用料や各種保険料など、内容が明白なものに限られる。
―――――――― 記載例 ――――――――
(賃金の支払いと控除)
第〇条 賃金は、労働者に対し直接、通貨で全額を支払う。
2 前項について、労働者本人が指定する金融機関の預貯金口座に対し、振込により賃金を支払う。
3 次に挙げるものは、賃金から控除する。
① 源泉所得税
② 住民税
③ 健康保険、厚生年金保険および雇用保険の保険料の被保険者負担分
絶対的必要記載事項③:退職に関する定め
退職に関して、定年退職・任意退職・解雇についての定め方を見ていきましょう。
定年について
定年とは、労働者が一定の年齢に達したことを理由とする退職制度のことです。
この“一定の年齢”は会社が定めることもできますが、60歳を下回ることは禁じられています。
―――――――― 記載例 ――――――――
(定年)
第〇条 労働者の定年は、満65歳とし、定年に達した日の属する月の末日をもって退職とする。
任意退職について
雇用期間の定めがない場合、労働者は任意のタイミングで退職の申し出ができます。
そして退職の申出から14日が経過することで、会社の承認を要することなく、退職することになります。
また、労働者が使用期間や業務の種類、地位、賃金、退職事由についての証明書を求めたときには、会社は証明書を交付しなければならないことも法律上義務付けられています。
これらについても明記しておくと良いでしょう。
―――――――― 記載例 ――――――――
(退職)
第〇条 労働者が次のいずれかに該当するときは、退職とする。
① 退職願を提出して〇日を経過したとき
② 期間を定めて雇用されている場合は、その期間を満了したとき
③ 死亡したとき
2 退職した労働者、または解雇された労働者の請求に基づき、使用期間、業務の種類、地位、賃金、退職の事由を記載した証明書を交付する。
解雇について
解雇の事由に関して、「合理的な理由がない」「社会通念上相当でない」という場合には権利の濫用があったとして無効になってしまいます。
その他様々な法令に抵触しないよう配慮して解雇事由は定めなければなりません。
―――――――― 記載例 ――――――――
(解雇)
第〇条 労働者が次のいずれかに該当するとき、解雇することがある。
① 勤務状況が著しく不良であって改善の見込みもなく、労働者としての職責を果たし得ないとき。
② ・・
③ ・・
就業規則の内容は各事業場に適したものでなければなりません。そのため最適化を目指すと、雛形をベースに作成したとしてもオリジナルの内容になっていくと思われます。また、有効かつ効果的な就業規則とするためには専門家のサポートも欠かせません。