株式の保有割合が大きいと、それだけ会社を所有することを意味します。つまり企業に対する権限の強さを表します。そこで、実際に経営を行う代表者ら以外に多く株式を発行していると、代表者らの持株比率は下がり、相対的に企業に対する権限が弱くなってしまいます。
しかしこれを是正する手段がないわけではありません。ここでは持株比率を変える方法、そしてその際の問題点について解説していきます。
目次
株式を新たに発行することで持株比率は変えられる
持株比率を変えるには、株式の発行をすれば良いのです。
仮に創業者が100株、投資家らがトータル100株を持っている場合、持株比率は1:1です。ここで創業者に100株を発行すれば、持株比率は2:1にすることができ、特別決議の要件も満たすことが可能となります。
株式発行による持株比率変更の問題点
上の通り、株式の発行をすれば持株比率は変えることができます。しかしながら、問題は「経営権に大きな変化を伴う株式発行ができるのか」という点にあります。
投資家の賛成が得られない
創業者であっても、何でも自由に企業の方針を決めることができるわけではありません。企業としての意思決定は株主総会で行うのが原則だからです。
そこで、大きな決断をする場合には、少なくとも株主総会で過半数の賛成を得る必要がありますし、より重要な事項であれば2/3以上の賛成を得なければなりません。
つまり、投資家の持株比率が大きいと、創業者にとって一方的に有利な内容の決定をすることができなくなるのです。比率が1:1だと過半数ではありませんので、普通決議も確実に行うことができなくなります。
よって、現実的には株式の発行による持株比率の変更はかなり難しいということです。
この点理解して、事前に慎重な検討をした上で株式は割当てていかなければなりません。
差し止めを受ける
創業者の持株比率がまだ一定以上ある場合には、自由な意志決定がしやすいです。
しかしながら、だからといってどんなことでも際限なく決められるわけではありません。法律上課せられている規制には従わなければなりません。
例えば会社法には以下の規定が置かれています。
第二百十条 次に掲げる場合において、株主が不利益を受けるおそれがあるときは、株主は、株式会社に対し、第百九十九条第一項の募集に係る株式の発行又は自己株式の処分をやめることを請求することができる。
引用:e-Gov法令検索 会社法第210条(https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=417AC0000000086)
一 当該株式の発行又は自己株式の処分が法令又は定款に違反する場合
二 当該株式の発行又は自己株式の処分が著しく不公正な方法により行われる場合
株式発行の方法が「著しく不公正」なのであれば、差止めを受ける可能性があるということです。
どのような場合に「著しく不公正」と評価されるのか、過去の裁判で出された基準を参考にする必要があります。
そして過去の裁判所の判断によると、「不当な目的が他の目的に優越する」のであれば、不当な目的が本件株式発行の主要な目的であると評価され、発行の差止めが認められるということになります。
真に「資金調達をするために株式を発行したい」のであれば著しく不公正とは言えないかもしれません。
しかし、資金調達は単なる名目であり、本当は「資金調達のふりをして、本当は自分以外の株主を排斥するのが目的」であれば差止められる可能性があります。
持株比率変更に向けての対策
持株比率の変更は簡単ではありませんので、しっかりと対策を立てておくことが大切です。
資本政策の慎重な検討
やはり事後対応ではなく、事前の対策を打ち立てておくことがもっとも大切です。
最初に投資してくれた投資家の承諾がなければ何もできない、という状況が避けられるよう計画的に創業を行わなければなりません。
やり直しは困難ですので、最初の資本政策を慎重に検討するようにすべきです。
例えば立ち上げにあたってのコストを抑えられないか、できるだけ創業者だけでカバーできないか、外部に出すシェアは何%までに抑えるべきか、専門家の力も借りながら考えていきましょう。よく言われるシェアの目安は「20%」です。20%程度にとどめておけばほとんどのことは創業者で決めることができます。
また、ある程度余裕を持たせておくことで将来的に大型の資金調達ができるようになります。これ以上の株式発行が難しい、という状況だとなかなか事業の成長速度を上げられません。
種類株式の発行
株式の発行を抑えることばかりを検討するのも得策ではありません。
株式はその内容をカスタマイズして発行することもできますので、工夫次第で創業者の経営権を維持しつつ投資家に参画してもらうことも可能です。
例えば議決権のない株式の利用、あるいは事後対応として剰余金の配当等につき劣後する株式の発行を行うなどして既存株主の協力が得られるような内容で発行をするなど、やり方はいろいろとあります。
種類株式の扱いについてもやはり専門家の助言が欠かせませんのであらかじめ相談をしておくことが大切です。