企業によって労務管理の手法は様々ですが、業務の種類として大きな違いがあるわけではありません。特に、法律にて管理すべきことが定められている事項に関しては、どの企業であっても省略することができません。
例えば「法定三帳簿」と呼ばれる帳簿の作成です。どのような帳簿が法定三帳簿に該当し、どのようなことを記入して作成しなければならないのか、ここで解説していきます。
目次
法定三帳簿とは
法定三帳簿とは、企業が人を雇った際整備することが法律上義務付けられている「労働者名簿」「賃金台帳」「出勤簿」等のことです。
労働者名簿 | すべての従業員(日々雇い入れられる者を除く)について事業所別に作成・保存することが義務付けられている帳簿。従業員に関する基本情報、雇用年月日等を記入し、内容に変更が生じたなら遅滞なく訂正をしなければならない。 |
賃金台帳 | 賃金を支払う都度、遅滞なく事業場ごとに作成をしなければならない。労働者名簿と併せて賃金台帳を作成しても良い。 |
出勤簿 | 労働時間や休憩時間、休日に関する管理をするために作成する帳簿。給与計算に用いることもできるよう、出勤日のみの記載ではなく、勤務時間なども把握できるように整備することが望ましい。 |
なお法定三帳簿に対しては、単に“違法状態を避けるためだけに作成するもの”と考えるのではなく、“適切な労務管理のために作成するもの”と捉えて作成に取り組むと良いでしょう。
日ごろから各帳簿の適切な整備をしておけば労務トラブルも回避しやすくなります。
労働者名簿の作成方法・記入事項
労働者名簿の作成義務・記入事項については、労働基準法第107条に規定が置かれています。
(労働者名簿)
e-Gov法令検索 労働基準法第107条(https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000049)
第百七条 使用者は、各事業場ごとに労働者名簿を、各労働者(日日雇い入れられる者を除く。)について調製し、労働者の氏名、生年月日、履歴その他厚生労働省令で定める事項を記入しなければならない。
② 前項の規定により記入すべき事項に変更があつた場合においては、遅滞なく訂正しなければならない。
さらに、記入事項の詳細については労働基準法施行規則第53条に規定が置かれており、労働者名簿に記入すべき最低限の事項をまとめると以下のようになります。
- 氏名
- 生年月日
- 履歴(社内での人事異動履歴などのこと)
- 性別
- 住所
- 従事する業務の種類(従業員数常時30人未満の事業場なら記載は不要)
- 雇用年月日
- 退職年月日とその事由
- 死亡年月日とその原因
以上の事項の記入ができていれば様式は自由でかまいませんが、厚生労働省から様式が提供されていますのでそちらも参考にすると良いでしょう。
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/roudoujouken01/pdf/b.pdf
なお、労働者名簿は雇い入れた労働者ごとに作成する必要があります。
賃金台帳の作成方法・記入事項
賃金台帳の作成義務・記入事項については、労働基準法第108条に規定が置かれています。
(賃金台帳)
e-Gov法令検索 労働基準法第108条(https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000049)
第百八条 使用者は、各事業場ごとに賃金台帳を調製し、賃金計算の基礎となる事項及び賃金の額その他厚生労働省令で定める事項を賃金支払の都度遅滞なく記入しなければならない。
さらに、記入事項の詳細については労働基準法施行規則第54条に規定が置かれており、賃金台帳に記入すべき最低限の事項をまとめると以下のようになります。
- 氏名
- 性別
- 賃金計算期間(日々雇い入れられる者については記載不要)
- 労働日数
- 労働時間数
- 時間外、休日、深夜労働の時間数
- 基本給や手当、その他賃金の種類別の額
- 賃金の一部を控除したならその額
なお、労働基準法上の「管理・監督者」にあたる従業員に関しては、労働時間数・時間外労働・休日労働の時間数の記入は不要とされています。
ただし深夜労働の時間数は記入が必要です。
賃金台帳も様式は自由でかまいませんが、厚生労働省が提供する様式も参考にすると良いでしょう。
常用労働者についてはこちら
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/roudoujouken01/pdf/d.pdf
日々雇い入れられる労働者についてはこちら
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/roudoujouken01/pdf/e.pdf
出勤簿の作成方法・記入事項
労働基準法第109条では、労働者名簿や賃金台帳などに関するその他重要な書類な書類についても作成・保存を求めています。
(記録の保存)
e-Gov法令検索 労働基準法第109条(https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000049)
第百九条 使用者は、労働者名簿、賃金台帳及び雇入れ、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を五年間保存しなければならない。
この書類の代表例が“出勤簿”です。出勤簿には「氏名」「出勤日」「出勤時刻」「退勤時刻」「休憩時間」などを記載します。
法定三帳簿の保存期間
法定三帳簿については3年間の保存が義務付けられています。
ただ、その3年間を起算する基準日は異なります。
労働者名簿については「労働者の退職・解雇・死亡の日」、賃金台帳については「最後の記入をした日」、その他出勤簿等については「その完結の日」とされています。
※退職金に関しては5年、雇用保険に関しては4年とされているなど、一部3年を超えて保存しなければいけないものもあるため要注意です。