設立登記を経て会社が成立しても、中で動く人がいなければ事業は始められません。創業者1人だけで行う、個人事業主のような規模であれば問題ないかもしれませんが、多くの場合には従業員を雇うことになるでしょう。
そして雇用を行う場合には行わなければならない手続などがいくつかあります。ここでその基本的な事項を挙げていきます。
目次
労働契約の締結が前提
従業員を雇用するためには労働契約の締結をしなければなりません。
会社が一方的に雇用することはできませんので、会社と従業員が同等の立場で契約を交わすことになります。双方から労働条件を提示し、互いがその内容に納得できれば労働契約は成立となります。
口約束をするだけでも契約は成立させられますが、労働契約書を作成するのが一般的で、形に残しておくことがトラブル防止の観点からも重要と言えます。
また、“労働者名簿”の作成も忘れずに行う必要があります。
労働者名簿は、従業員の氏名・生年月日・性別・履歴・住所・業務内容・採用年月日などを記載した名簿のことです。今後の手続で必要になる場面が出てきますので、きちんと作成、管理しておきましょう。
明示すべき労働条件
契約は当事者双方の合意があれば自由に締結できるのが原則です。
しかし労働契約の場合には、一方当事者である会社側が実質強い力を持っており、従業員側が逆らうことが難しいという実情もあります。そこで労働者保護を目的とし、法令で会社側に規制を課している例が多くあります。
特に雇用をする際に注視すべきは、労働基準法施行規則に規定されている絶対的明示事項の存在です。以下の事項については契約締結にあたり必ず書面にて提示しなければなりません。
- 契約期間
- 就業場所と業務内容
- 始業・終業の時刻
- 残業の有無
- 休憩時間、休日、休暇
- 賃金、昇給に関する情報
- 退職に関する規定
社会保険関係(厚生年金保険と健康保険)の加入手続
“常時従業員を使用”している会社の事業所には、厚生年金保険および健康保険の加入が法律上義務付けられています。
加入手続がまだできていないという場合には、「新規適用届」を提出する必要があります。所定の要件を満たした上で、日本年金機構に対し提出をします。窓口に直接持っていく方法でもよいですし、郵送、電子申請でも認められています。
なお、提出期限が“事実の発生から5日以内”と定められていますので、注意しましょう。
労働保険関係(労災保険と雇用保険)の加入手続
労災保険(労働者災害補償保険)と雇用保険(失業保険とも呼ばれる)を合わせて「労働保険」と呼びます。
上の社会保険関連のみならず、従業員を雇用する会社は労働保険関連の手続も行う必要があります。
従業員が業務中あるいは通勤中に怪我をしたり病気になったりしたときに保険給付を行うのが労災保険です。
従業員が退職・失業をしたときに、それまでの収入や加入期間に応じて給付を行うのが雇用保険です。介護や育児をする従業員に対しても給付は行われます。
それぞれの加入手続について説明していきます。
労災保険加入の流れ
起業して間もない、まだ何らの労働保険関連の手続をしていないという場合には、まず労災保険の手続から勧めていきましょう。
「労働保険関係成立届」を、会社の所在地を管轄とする労働基準監督署に届出るのです。これにより保険関係が成立します。従業員を雇い入れた日の翌日から10日以内に提出しなければなりませんので、期限に注意しましょう。
また、「労働保険概算保険料申告書」も併せて提出し、概算保険料の申告を行いましょう。概算保険料とは、保険年度の初日~年度末までに雇用する従業員の“賃金総額の見込に保険料率を乗じて算出”されるものです。
労働保険概算保険料申告書は必ずしも労働保険関係成立届と一緒に出す必要はなく、保険関係成立の日から50日以内の納付であれば良いとされています。
その他、会社の登記簿謄本(登記事項証明書)と、従業員の賃金台帳も添付書類として提出します。
なお、労働保険料は前払いです。概算された保険料を納付しなければなりません。
雇用保険加入の流れ
労災保険の手続が済めば、雇用保険の手続へと進みましょう。
雇用保険についてはハローワーク(公共職業安定所)で行います。
「雇用保険適用事業所設置届」と加入する者全員分の「雇用保険被保険者資格取得届」を提出します。その他以下の書類等も一緒に提出しますので、準備をしておきましょう。
- 会社の登記簿謄本(登記事項証明書)
- 労働者名簿
- 出勤簿等の写し
- 賃金台帳の写し
- 労働保険関係成立届の事業主控え
※労働基準監督署の受付印が押印されているもの
従業員を雇用した日の翌日から10日以内が期限です。
ここで紹介したように、従業員を雇い入れたときには様々な手続を行わなければなりません。しかも事実が発生したときから数日~10日以内にしないといけない手続が多く、設立手続を終えたからといって安心することはできません。その他税金関係の手続もありますので、効率的に事業がスタートさせられるよう専門家の力も借りつつ手続を進行させていくと良いでしょう。